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「その日のまえに」 [映画(2008)]

札幌にいるとミニシアター系の作品はどうしても公開が東京に比べて遅れてしまう。この『その日のまえに』も1か月以上遅れてようやく観ることができた。これだけの期間が開くと、その間に評判が聞こえてくるもので、僕は先入観を持ちたくないのでなるべく避けるようにはしているのだが、この作品に関しては全く聞こえてこず、かえって気になってしまい、いくつかのサイトを見てみた。そこには否定的な意見が多数。前売りを買い、公開を楽しみにしていた身とすれば不安になってくる。半ば諦めにも近い境地で映画館の座席に着いたのだが、観始めるとそんな不安は吹き飛んで行った。それどころか感動に討ちふるえた。

大林宣彦復活!

と叫びたくなった。確かに一筋縄ではいかない撮り方をしているので戸惑う観客も多かったことだろう。僕は今回ほど、若い頃に背伸びしてATGの難解な作品を名画座で観ておいて良かったと思えたことはない。観念的で面白味のない作品を死にそうになるくらい退屈しながらも必死に食らいついて観ておいて良かったと思えたことはない。映画文法を維持することよりも、作家の心象風景を優先させた『その日のまえに』は、重松清の原作の呪縛から解き放たれた大林宣彦監督の傑作である。

物語は不治の癌を宣告された妻(永作博美)と夫(南原清隆)が、妻が死ぬまでの短い間にどのように愛を育んだかを軸に、彼らが思い出を辿りに訪れる、昔住んだ「浜風町」に去来する人々のドラマを織り込んだ内容になっている。

この浜風町を歩く永作とナンチャンの姿を観ているうちに、そのふたりが大林監督と大林映画のプロデューサーを務める奥方のように思えてきた。ずっと二人三脚で映画を創ってきた(たぶん)おしどり夫婦の愛の物語に観えてきた。もちろん主役の二人に比べれば大林夫婦はずっと年上であるが、これからそんな先ではなかろう別れに対する「想い」が役者に乗り移っているかのように思えた。したがって映画の中の不可思議な光景は、今の大林監督の心象風景だったのではなかろうか。その意味ではこの作品は重松清の世界よりも大林監督の個人的な想いが勝った作品になっており、深い愛情が作品から感じ取ることができた。

ナンチャンと永作博美で夫婦の別れを描き、筧利夫と今井雅之のエピソードで友人との別れを描き、多くの大林組の常連の役者を呼び寄せ(特に寺島咲は彼女じゃなくてもいいような役だったし、これが遺作となった峰岸徹も出したくて後から付け足したような役だった)盛大な別れの作品を創ったのだと思えた。こんな想いが込められた作品を前に、こちらはただ圧倒されるのみ。映像表現の瑞々しさにも驚かされた。

一般的には不評の嵐に曝されている作品だけど、僕は断固支持します!

その日のまえに.jpg


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コメント 4

nexus_6

我が街のミニシアターの灯火は消えてしまいました。
ちゃんと通わなかった私にも責任があります...
by nexus_6 (2008-12-15 00:52) 

丹下段平

札幌はミニシアター系の作品を上映する劇場が幾つかあるようで、この作品を観たシネコンは半分以上のスクリーンがミニシアター系作品を上映していました。
by 丹下段平 (2008-12-15 02:35) 

マヌカン☆

予告編を見ることも無くて、簡単なあらすじだけを読んだのでスルーしてしまった作品でした。
それなら私も見よう・・・と記事を拝見して思ったのですが大阪での公開は終わったばかりのようです 
DVDを待つことにします。
by マヌカン☆ (2008-12-15 08:58) 

丹下段平

大阪は終わったばかりなんですね。…ってことは、大阪で上映したフィルムが札幌に回ってきたのかな?
僕的には大変気に入った作品なので、機会があったらご覧くださいね。
by 丹下段平 (2008-12-16 18:56) 

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